STIとは「スバル・テクニカ・インターナショナル」の略称で、1988年に設立されたスバルのモータースポーツ活動を支える子会社です。
スバル車はもちろん、それ以外のメーカーを問わずクルマに興味のある方であれば一度は耳にするであろうブランド「STI」ですが、主にレーシングカーの開発を行っています。
またレースチームで培った技術を活かして、スバル車に向けたチューニングパーツの製造および販売業務もその事業の内の1つです。
近年ではモータースポーツのイメージが強いSTIスポーツを、量産車のグレードとして設定してファンの人気を獲得しています。
そんなSTIですが、クルマにそこまで興味がない人にとったら「ん?スバルじゃないの?」「STIグレードって何?」「結局何がすごいわけ?」みたいな人って多いんじゃないかなぁと思います。
そこでこの記事では、これまでのSTIの活動、歴史などを振り返り、「STIの良さ」をみなさんに伝えていきます。
後半では筆者も実際に取り付けた経験がある「おすすめのSTIパーツ」もご紹介します。
もくじ
STIに込められた「意味」と「栄光の歴史」
誰がどこで運転しても世界一気持ち良く、さらに運転がうまくなるクルマを。
STIのルーツは遡ること1972年。
スバル(当時の富士重工業)は、オーストラリアで開催されたサザンクロスラリーにレオーネというクルマで初参戦しました。
この活躍でスバルオリジナルのスポーツ性が培われて、「スバル=4WD」というイメージを定着させます。
その時にドライバーが運転に集中できるように手助けする「コ・ドライバー」を担当したのが、のちにSTIを創業し、インプレッサWRX STIを作った久世隆一郎さんです。
のちにWRC(世界ラリー選手権)の活動で長年スバル側の陣頭指揮をとり、プロドライブ社と共にスバルを日本の自動車メーカー初、かつ3年連続の年間タイトル獲得へと導き、それまで世界では無名に近かった「スバル」のブランドを一気に拡大させた偉人です。
初仕事で世界記録を達成させた「レガシィRS」
レガシィの10万㎞世界速度記録って日本で1番凄い記録だと思う。
— なるレオ@覇玉連合 (@A33_LEONE) April 22, 2018
当時の新幹線より速い速度で19日間ぶっ通しで走り続けるのはホントに凄いよ! pic.twitter.com/mdW1PfprV5
1989年1月2日。
アメリカのアリゾナ州に、デビュー間近の4ドアセダンが長い道のりを走り出します。
2リッター水平対向DOHCターボエンジン「EJ20」の快音を響かせる4WDセダン。
その名は「レガシィRS」
その当時、1960年代から基本設計を変えずにマイナーチェンジやモデルチェンジを繰り返してきた旧型車のシステムが時代に合わず、それによる北米市場と国内市場での不振から、自動車メーカーとしての存続が危ぶまれていたスバル。
再起を図るべく全力を注いで開発した新世代の4WDスポーツセダンです。
「スバル」の名を世界に轟かせるべく、1988年に発足したばかりの「STI」でしたが、この新型セダンの性能を証明すべく挑んだのが、10万km走行での世界速度記録挑戦という大仕事でした。
結果は、見事大成功。
デビュー前のレガシィセダンRSが、10万km耐久走行における走行平均速度223.345km/hを達成、FIAの連続走行・世界速度記録の国際記録(当時)を樹立しました。
19日間連続で走りきったレガシィRSは、「世界一の記録を作った」として、STIの名を世界に広め、その記念すべきゴールは、レガシィ、そしてEJ20という、長くスバルの根幹となる車種とエンジンの華々しいスタートでもありました。
WRC〜ニュルブルクリンクでの活躍
その後、ラリーの最高峰であるWRC(世界ラリー選手権)で輝かしい成績をおさめ、全世界にその独自の技術を見せつけます。
WRCとは、交通が遮断された一般道を市販車ベースのマシンで走り、タイムを競うタイムアタック競技のこと。舗装路、未舗装路、スノーなど様々なコンディションの道で行われ、ラリーごとにコースのキャラクターは大きく異なります。
1990年からは初代レガシィRSで本格参戦を始め、1993年から初代インプレッサWRXを投入。
その現場では、協力するパートナーとともに、常にSTIスタッフの姿がありました。
スバル伝統の4WDシステムこと「シンメトリカルAWD」で、2リッターの水平対向4気筒ターボエンジン+フルタイム4WDシステムを、レガシィよりふたまわりほど小さい4ドアセダンボディに積んだこのマシンで、翌1994年には3勝を挙げます。
1995年には5勝し、スバルは本格参戦開始から6年目にしてメイクス、ドライバーズ(コリン・マクレー)のダブルタイトルに。
1996年にメイクスタイトルを連覇した後、1997年はベースマシンを2ドアクーペに変更してメイクスを3連覇。
メイクスタイトルの3連覇は、これまでのところ日本車メーカーではスバルのみ。
この功績は、WRCの歴史と人々の脳裏に刻み込まれています。
2008年を最後に、WRCでのワークス活動は撤退しますが、同年にはニュルブルクリンク24時間レースへ、翌2009年には、SUPER GTのGT300クラスへレガシィB4で参戦(後にBRZへ更新)。
特にニュルブルクリンクは、初代インプレッサWRXの開発当時から走り込んでおり、市販車へのフィードバックへ最適なコースでした。
STIを中心としたスポーツ部門によるラップタイム挑戦や24時間レース参戦は、走りを重視するスバルのプレミアムスポーツ性を高める上で、非常に重要な役割を果たしており、今日のスバルの走りを支えています。
STIコンプリートカーの頂点「Sシリーズ」
販売はスバルディーラーで行われるものの、普通のスバル市販車やそのSTIバージョンとは別に、STI独自のコンプリートカーも数多く送り出されてきました。
そのSTIでは、「tSシリーズ」など、インプレッサ以外の車種のコンプリートカーシリーズを世に送り出していますが、エンジン、足まわりはもとよりエアロパーツまでを手掛け、コンプリートカーのシリーズの頂点に位置するのが「Sシリーズ」。
その元となったのは、1998年に登場した伝説的名車「インプレッサ22B STI version」。
WRCで3連覇を達成したインプレッサワールドラリーカー97をイメージし、前後フェンダーを大きく張り出させたワイドボディが特徴で、限定400台の500万円で発売されましたが即完売。
2022年現在では、中古車で約1000万円以上で取引されるなど、プレミア価格になっています。
その後も2000年に初代インプレッサセダンWRXをベースとした「S201」で、日本自動車工業会の加盟メーカーでない利点を活かし、当時の280馬力自主規制を超える300馬力へチューンしたエンジンを搭載。
以後、「STIパッケージ」的な内外装ドレスアップやサスペンションチューンに留まるものから、S201同様にスバル本体とは別に「コンプリートカーメーカーとしてのSTI」としてレガシィやインプレッサ、WRXのSシリーズを数多く発売してきました。
2017年に発売された「S208」は、スバルとして初めてとなる抽選販売がおこなわれた特別モデルで、450台の販売台数に2600件以上の応募が寄せられるなど、とにかくスバルファンをくすぐる限定モデル。
スバル本体とは異なる立場から開発し、スバルのプレミアムスポーツ性をより高め、水平対向エンジンやシンメトリカルAWDを元にした独自の技術を、世界で唯一無二のスポーツカーとして生み出し続けているのが「STI」というブランドなんです。
カタログモデルへと昇格したSTI
レガシィやインプレッサなどの特別仕様車として設定されていた「STIチューン」。
後にカタログモデルへ昇格し、「並のインプレッサWRXとは異なるSTIチューン」として、ストリートからモータースポーツまで大活躍し、多くのスポーツ派スバリストの心を熱くさせたのがカタログモデルのSTIチューンです。
フォレスターへも設定され、ベースモデルと異なるチューンでより高性能を引き出したほか、トヨタOEM車であるトールワゴン、「トレジア」にもSTIパーツが発売されるなど、そこまでモータースポーツに興味がなかった人でも身近になってきました。
近年では「WRX STI」として、WRX S4の高性能スポーツ仕様へ車名そのものにSTIの名が使われることもあり、STIの思想である「誰がどこで運転しても世界一気持ち良く、さらに運転がうまくなるクルマを」が今日のスバルを支えています。
EVでも世界一の走りを目指す
東京オートサロン2022では、システム最大1088psを搭載した「STI E-RA CONCEPT」を出展。
スバルの強みであり個性とも言える「AWD制御技術」の知見を活用し、モーターはヤマハ発動機から供給をうけたハイパーEV向けギヤ、インバーター一体式大トルク高回転タイプを採用し、蓄電量60kWhのリチウムイオンバッテリーで駆動するモンスターマシン。
STIは、すでに未来のモータースポーツに目を向けています。
2030年以降は、日本を含む多くの先進国でCAFE規制と通称される厳しい燃費規制を通らないクルマは販売が厳しく規制されます。
事実上、電動化されていないモデルの2030年代における新車販売禁止、あるいは、内燃機関を搭載したクルマの販売禁止にまで踏み込んだ時代が、目前に迫っています。
STIは、単にコンプリートカーやスポーツパーツの開発を手掛けるだけではありません。
「スバルがその名を世界で輝かせるためのチューニングを。そして最前線で戦いつづける」。
それがSTIの存在意義であり、設立以来、つねに世界を舞台として戦い続けてきたSTIチューンの凄み。
今後も私たちの期待を良い意味で裏切ってくれるブランドになってくれることでしょう。
筆者おすすめのSTIパーツ「5選」
ここからは、過去に筆者のマイカーにも装着していた「おすすめのSTIパーツ」とついてご紹介します。
STI エアロパーツ
SGP(スバルグローバルプラットフォーム)+アドバンスポーツ+セダン(インプレッサG4)+STIエアロパーツ(リアは未装着)
— 赤インプ (@akaimp_vab_gk7) March 16, 2019
=高速道路マジで修正舵ゼロ
※写真は高速道路じゃありません💦
早くリアも装置せねば💦 pic.twitter.com/IQ0QTrBVlM
エアロパーツの役目は、風の力を利用して車の走行安定性を高める役目があります。
特に100km/h以上の速度域では風の影響は大きく受けます。
その影響は速度と共に増え、その空気の影響は空気抵抗となって、クルマの速度の抵抗となり、燃費を悪化させ、走行を不安定にするなどの悪影響を及ぼしてしまいます。
エアロパーツは、上記のようにクルマが空気から受ける悪影響を低減させると同時に、うまく空気の力を利用して、クルマの走行を助けるためのパーツです。
ようは風を味方につける訳ですね。
そして、STIエアロパーツの効果は100km/h付近から発揮されます。
これは間違いなく素人の人にでも体感できると思います。
STIパーツのコンセプトは、「疲れない」「運転が上手くなる」「もっと愉しくなる」です。
STIのエアロダイナミクスは、「矢」のような直進安定性とドライバーの意のままに操れるハンドリング性能の向上を目的としています。
その効果は、今までラリーやニュルブルクリンク24時間耐久レースをはじめとしたモータースポーツ数々のタイトルを獲得してきた実績が証明です。
STI エアロパーツを取り付けれることで以下のような効果が期待できます。
詳しくはこちらの記事でも解説しています。
STI フレキシブルタワーバー
このフレキシブルタワーバーはかなり効くらしい。
— Car Media REVOLT-IS(レヴォルティス) (@revoltis) October 4, 2020
ニュル24時間レースでも鍛えられたとか。 pic.twitter.com/ypB9l6ooJH
そもそもタワーバーとは、フロントの上側サスペンション(フロント)取り付け部の左右を棒状などの剛体で連結することで、走行時のボディ変形を抑えるという機能があります。
ボディが変形してしまうとタイヤの接地面がねらいどおりに確保できなくなり、走行に支障をきたしてしまいます。
そこでタワーバーが装着することによって、サスペンションからの入力をストラットでしっかり受け止められるように補強するわけです。
とはいえデメリットもあって、悪路などの凹凸路を超えた後に、荷重が抜けてしまいがち。
荷重が抜けてしまうと、タイヤが路面をグリップできなくなってしまいます。
ですが、フレキシブルタワーバーの場合は、本体の中央が関節(折れ曲がる)のようになっており、横からの入力については強く、上下方向のみに変形するので通常のタワーバーの欠点を補っています。
フレキシブルタワーバーを取り付けることで以下のような効果が期待できます。
詳しくはこちらの記事でも解説しています。
STI フレキシブルドロースティフナー
今週からのMyレヴォーグ。STIフレキシブルタワーバー、フレキシブルドロースティフナー、フレキシブルサポートサブフレームリヤを付けました。凸凹の路面での横揺れが減って乗り心地が向上しました。 pic.twitter.com/RJH9yO8mJU
— Akikawa (@AkiKawa2013) February 12, 2017
STI フレキシブルタワーバーを装着することで、ハンドルのレスポンスやタイヤのグリップ力の向上に貢献してくれます。
ですが、カーブで車体が若干「腰砕ける」感覚とシャシが「しなる」感覚が残ります。
これは筆者の主観ですが、STI フレキシブルタワーバーだけだと車体がヨーイング方向にまだ課題があるのだと思ってます。
車体の上下を軸とした回転運動のこと。車体を真上から見たときに、左右のどちらかに旋回する挙動のことをヨーイングといいます。ヨーイングは、走行安定性を確保するためには重要な要素です。
ローリングとピッチングは極力抑えるのが一般的ですが、ヨーイングは旋回のきっかけを作るために必要になります。
しかし、旋回中に発生してしまうコントロールできないヨーイングは、オーバーステアやアンダーステアを引き起こし操縦安定性を悪化させてしまいます。
そこで、フレキシブルドロースティフナーを装着することでこの弱点を一掃。
シャシーのしなりを補正することでヨーイング方向の剛性とハンドリング性能をアップさせることができます。
まとめると以下の通り。
詳しくはこちらの記事でも解説しています。
STI フレキシブルドロースティフナーリヤ
STIフレキシブルドロースティフナーリヤを装着しました!
— 高虎 (@manic_fan) September 19, 2020
通称リヤドロってやつです(^O^)
取付けは内装ちょっと切りますがそれ以外はボルトオンなので自分でやっても1時間くらいでした!
リヤの追従が良くなって、バタつきの収まりも向上した感じがします(^^♪
噂どおりの効果でした!#STI #スバル pic.twitter.com/vNEgMIu6ow
STI フレキシブルパーツ第三弾として最近発売されたフレキシブルドロースティフナーリヤ。
タワーバー、ボティ直下に搭載されるドロースティフナーによって、ターンイン時の初期応答力、悪路などの凹凸路を超えた後やターンアウト時の荷重が抜けてしまいがちな場面、いわゆる「タイヤのグリップ力の確保」を強化されますが、リヤの追従性に若干遅れを感じます。
そこでSTIは、トランク周りやリヤキャビンに着目。
車体の後部は、ルーフから降りてくるパーツ、トランクやフロア周りのパーツなど、部品点数が多いため、どうしても部品同士に「遊び」が出きてしまいます。
その多くの部品の集合部分にプリロードをかけることで、フロント周りで強化された力の連続性をリヤまで途絶えなくするのを狙ったのがフレキシブルドロースティフナーリヤです。
これにより、リヤ周りの安定性がさらにアップし、スバルの足回りのメリットである「よく曲がり、そして安定する」という部分にその効果が付与されます。
ワンランク上の走りを、そしてドライバーの運転を上手くするために作られたパーツです。
STI ラテラルリンク
半年点検、問題なく終了😏
— Uや (@honouya) June 19, 2022
ピットのお兄さん「こんな良いタイヤ履いてマフラーも変えてるのに、ラテラルリンク純正のままなんですか?」と😰
明日ボヌスだし、ちょうどフェアで15%引きでまんまと契約させられちゃった🤪
走りがハッキリ変わると評判も良いし、楽しみ😆https://t.co/x5RsGKiqu4
ラテラルリンク(別名ラテラルロッド)とは、リンク式サスペンションの構成部品の1つで、主に駆動方式がFRや4WDの乗用車や商用車の後車軸に使われていたり、トラックやバスでは前後軸ともに使用されていたりする部品です。
役割としては、耐衝撃性に優れたホイールの横方向の動きを制御するもの。
前後方向の位置決め、挙動に関わるトレーリングアームに対して、ラテラルリンクは、その支点を中心とした振り子運動をクルマが上下に動いた際に、車軸の横の動きによりタイヤが地面を横方向に「こする」力を抑制する効果があります。
スバルの場合、リヤのサスペンション(ダブルウィッシュボーン式)に追加してラテラルリンクが装着されており、スバルのサスペンションのメリットである「リアの追従性や応答性」に貢献しているパーツでもあります。
STI ラテラルリンクは、純正のラテラルリンクにある「ゴムブッシュ」をピローボール化することにより、フレキシブルに制限なく動き、抵抗なく自由に動いてくれるので、路面からのダイレクト感がアップさせます。
このSTIラテラルリンクセット単体では、劇的な効果は体感できませんが、フレキスブルシリーズと組み合わせることで、フロントとリヤの調和が取れて、バランスが改善され、そして直進安定性はキープされていますから、クルマの動きの精度が向上されます。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
スバル車でよく見かける「STI」とは何?