法律で定められている「車の装備」ですが、その基準(保安基準)については多くの項目があり、一般の方はなかなか理解しにくい部分が多くあり、安易にカスタムをすると法に触れてしまう危険性があります。
とくに正規ディーラーなどは、地方運輸局長から指定自動車整備事業の指定をうけた「指定工場」なので、保安基準に適合しないクルマを整備したり、車検を通したと疑われると、営業停止などのペナルティを受ける可能性があるのでシビアに見ています。
保安基準違反になると、ディーラーへの入庫云々ではなく、そもそも公道を走ることが許されないわけですが、グレーゾーンな怪しいクルマは基本的に断る方向になります。
保安基準は、自動車検査員だけでなく、クルマを使用するドライバーも知っておくべき法律です。
そこでこの記事では、現役で自動車検査員で業務をしてきた中であった「面倒だった事例」をみなさんにシェアしていきます。
自分用に残しておいたメモみたいなものをそのままコピペしたような記事になっています。
保安基準には載っていない、グレーゾーンを攻めた事例も多くあるので、カスタムされる人や自動車検査員の人はぜひ役立てて下さい。
カスタムしてから「不正改造車」として取締られたり、整備工場で点検・整備を断られたりする前にしっかりと確認しておきましょう。
※当記事でご紹介する判断はあくまで筆者の経験談です。
※お住まいの地域によって判断が変わることがあります。
もくじ
保安基準の最近あった面倒な事例「33連発」
筆者が今まで経験してきた中で面倒だった保安基準の事例は以下の4つです。
- 灯火類
- 内装類
- 外装類(タイヤ含む)
- 足回り
この中でも保安基準の判断の中でとくに迷ったものをご紹介します。
灯火類
灯火類は、フロント部分とリア部分といった部位ごとにさまざまな基準が設定されているので注意が必要です。
ヘッドライト内とフォグランプにLEDイカリング
イカリングはその他の灯火と判断し、照射性能に影響がなければ保安基準適合という考え方です。
ただし、片方のリングが故障で不点灯状態だったりすると、不適切な補修(不点灯状態にある灯火であって、この灯火に係る電球及びすべての配線が取り外されていないもの)に該当するため、保安基準不適合となります。
ヘッドライト下にLEDテープによるシーケンシャルウィンカー
かなり判断が難しいのですが、「自動車用部品の取付等を目的として設計・制作されたLEDテープ式のシーケンシャルウィンカー」であれば保安基準適合と判断できます。
ただし、「自動車用部品の取付等を目的として設計・制作された」という部分を自動車検査員に証明できるようにしておかなければなりません。
すべてのLEDテープは、基本的にこの考え方のもと判断されるので注意です。
フォグランプレンズへの着色フィルム貼り付け
ただし、不適合な灯光色から基準に適合させるためにフィルムが着色加工されて貼付けされていれば不適切な補修となり、保安基準不適合となるので注意です。
アクセサリーライナーとウィンカーが兼用である
アクセサリーライナーとは、フォグカバー周辺に取り付けられるスバル車ではお馴染みのアクセサリーランプです。
このアクセサリーランプをウィンカー点灯時に点灯させ、さらにシーケンシャルウィンカー化させても保安基準適合です。
ただし、「その他の灯火」と「その他の灯火」の併用は禁止されています。
例えば、後付けのライトを手元のスイッチで、白色や青色に切り替えられるようなカスタムはNGで、その他の灯火に適合している色でも、切り替えて色を併用することはできません。
さらにいうと、光度が増減するその他灯火も不適合なので注意です。
バンパーサイドベゼル内に「フォグランプ」
WRX STI(VA用)に販売されているSTI製バンパーサイドベゼルの導風ダクトと金網メッシュ内にフォグランプを取り付けられるように加工した事案です。
金網メッシュがフォグランプの照明を妨げているように見えますが、照明部の面積には規定が無いので保安基準適合と判断できます。
車幅灯のみしか点灯しない構造
車幅灯の取付要件に「車幅灯は尾灯、 (中略)、番号灯と同時に点灯及び消灯できる構造でなければならない」との記述があります。
また、後付けのスイッチによる点灯の状態では、メーター内に点灯操作状態が表示されない構造は保安基準不適合と考えられます。
ドアミラーウィンカーがシーケンシャル
ドアミラーウィンカーは、解釈が非常に難しいです。
詳しくはこちらで解説していますのでご参考に。
後付けでドアミラーウィンカーの取り付け
ただし、この状態でミラーの鏡部などにアンチグレアドアミラーを取り付けると不適合となるので注意が必要です。
テールランプが車両側方まで回り込んでいる
こちらはコラゾン社のVM系レヴォーグ用テールランプの事案です。
ちなみに保安基準の第42条その他の灯火等の制限内の前方灯火の禁止について「指定自動車等と同一の構造を有し、かつ、同一の位置に備えられているもので、側面に回り込む赤色の照明部を有する後方に表示する灯火は、この基準に適合するものとする」とあります。
この場合は、「前方から視認出来る尾灯」なのですが、前方を照射していると考えなくとも良いと陸運支局から回答を頂いた経験があります。
ちなみにテールランプ内にあれば、側方灯の性能要件に当てはまらないケースがほとんどみたいです。
前方から見える赤色の灯光は前方を照射していると考えなくても良いとの解釈で、保安基準適合と判断します。
スイッチの切り替えで点灯パターンを切り替える
こちらもコラゾン社のVM系レヴォーグ用テールランプの事案です。
点灯方式の切り替えで「不適合になる状態」にならず、ウィンカーの点滅周期に大きな変化がなければ保安基準適合と判断します。
ブレーキランプとバックランプの兼用
ブレーキランプとバックランプの兼用は保安基準に規定がありません。
Eマーク取得品かの違いが重要になってくるかと思います。
ちなみにこちらの事案は、コラゾン社のVA系WRX用テールランプでの適否です。
コラゾン社は大阪陸運局、独立行政法人•自動車技術総合機構にて保安基準に対して問題がないことを立証した上で販売しているそうです。
「不適合とはいえない」という判断のもと、保安基準適合での判断で差し支えないと思われます。
バックカメラに白色のLEDランプを装着
ネットで売られているバックカメラで、LEDランプ付きのバックカメラがあります。
おそらく夜間時の視認性を上げるためのランプでしょう。
仮に、この光が「青色」であれば適合となります。
緊急ブレーキ点滅キットの装着
追突を予防するための商品のようです。
サンキューハザードの装着
上記の通りですね。
内装類
車内には乗員保護の観点からさまざまな保安基準が設定されているので、後付けで用品を装着する場合は注意が必要です。
インパネ正面にネジやボルトで用品を装着
その用品が真正面に向いており、「固定的な取り付け」をしていれば保安基準不適合と判断されます。
ただし、ダッシュボード上にボルト・ナット、タッピングビスによる取り付けの場合はOKになるケースもあります(3連メーターの土台をダッシュボード上にビスで固定したりなど)。
これは自動車検査員の目視検査によって判断が分かれます。
シートの「クッションと表皮」を社外品へ変更
仮に持込み検査を実施したとして、検査官が純正シートであると認識すれば適合で通ってしまう可能性がありますが、シート詳細を把握すれば適合の認可は下りないでしょう。
かなり黒寄りのグレーな改造ですね。
シートレールが社外品
現在の検査時の状態 = 証明書記載の車名、車両型式、製品品番、対応シートなどです。
参考までに、カワイ製作所のシートレールは公的機関での試験結果に基づく強度説明書が発行可能です。
ルームミラーが社外品モニター
例えば、外部モニター機能があったとしても、後写鏡の機能を有していれば保安基準適合と判断できます。
しかし、すべてのミラー部分が外部モニターとして作動し、ルームミラーの機能を逸脱する様な製品ですと、それは保安基準不適合と判断できます。
なお、純正ルームミラーへ挟み込んで装着するタイプの製品については、装飾品アクセサリー(ワイドミラーなど)と同様の取り扱いとなりますので、ルームミラーとしての機能を有しているか、を検査することになります。
ルームミラーを取り外している
ルームミラー(車室内)を取り外していても、ドアミラー(車室外)で基準を満たす事が出来れば保安基準適合と言えます。
シートベルトが社外品
恐らく何らかの「自動車用シートベルト」としての証明になるものが必要になるかと思います。
キーが抜けない
判断としては、黒寄りのグレーですね。
施錠装置の規定では、「自動車の原動機に備える施錠装置は、その作動により施錠装置を備えた装置の機能を確実に停止させ、かつ安全な運行を妨げないものとして構造、施錠性能等に関し、堅ろうであり、かつ容易にその機能が損なわれ、または作動を解除されることがない構造であること」という文言があります。
- キーが抜けない→堅ろうではない
- キーロックソレノイドを外す→ 安全な運行を妨げる恐れがある
このような判断ができるので、保安基準不適合と考えておいた方がいいです。
ハザードスイッチに「三角マーク」が無い
古い車両だとマークが消えている場合がありますが、そのままでもOKです。
外装類
外装類はカスタムパーツが非常に多いので、しっかりとした知識が必要です。
両面テープによるはみ出しタイヤのごまかし
ホイールアーチトリムやウレタン製のモールを両面テープで貼り付けても、それはフェンダーとしては成立しません。
なので、はみ出しタイヤを検査する場合は、その用品を除いた正規のフェンダー位置からの測定になります。
しかし、純正(型式指定を受けた車両)で装着されている車両であれば、部品を含めてフェンダーの一部として測定するのは差し支えないです。
フロントガラスのドット部分にステッカー
フロントガラス上部のドット部分(黒い点が無数にあるとこ)は、ガラス開口部という解釈です。
側面がカナード状のフロントバンパー
車検証記載の車幅を超えていない、鋭い突起等が無ければ、保安基準適合と判断します。
フロントバンパーにグリルガードを装着
グリルガード、バンパーガードは指定部品に含まれます。
バンパーが大きく損傷している
ただし、鋭利な箇所があるのであれば要修理です。
ヘッドライトウォッシャーが故障している
そもそも備える必要のない車両であれば、保安基準は関係ないということになります。
ただし、機能が必要な車両においては、社外品バンパーなどを装着し、非作動となっている場合は保安基準不適合となりますので注意して下さい。
足回り
足回りは、パーツによったら構造等変更検査が必要になるケースが多いので十分注意して下さい。
リヤラテラルリンクが社外品
ラテラルリンクはスバルでの呼び名で、一般的にはロアーアームに当たります。
トレーリングリンク、ラテラルリンクフロントについては構造等変更検査は必要ありません。
リヤキャンバーを調整するパーツを装着
こちらは、BLITZ社から販売されているミラクルキャンバーアジャスターというパーツを装着した事例です。
装着自体は問題ありませんが、このパーツを装着することによって車高が大きく下がるなど、車検証の諸元値より一定範囲を超える変更となる場合は、構造等変更検査を受ける必要があります。
バンプラバーが欠落している
ショックアブソーバーの底付きを防止するバンプラバーは、乗り心地にも影響する重要な部品です。
サスペンションの一部とみなされます。
ストラット部にスペーサーを装着
ただし、装着によって生じる視界の確認も必要です。
5速ミッションから6速ミッションに載せ替える
「型式指定車両 → 型式指定車両」などの純正流用の場合は、申請時にサービスマニュアルをそれぞれ添付すれば、 強度計算書等は必要無いです。
【補足1】車高などの寸法に変更があるカスタム
クルマを改造する場合には、必ず知っておかなければならない「車高や車枠」について解説します。
自動車の寸法(長さ、幅、高さ)および重量は車両の種類によって決められた「一定の範囲内」において自由な変更が認められています。
長さ | 幅 | 高さ | 車両重量 | |
---|---|---|---|---|
小型自動車 軽自動車 | ±3cm | ±2cm | ±4cm | ±50kg |
普通自動車 大型特殊自動車 | ±3cm | ±2cm | ±4cm | ±100kg |
上記に示した「一定範囲内」であれば、指定部品・指定外部品および取り付け方法に関係なく構造等変更検査を受ける必要はなく車検を通すことが出来ます。
【補足2】指定部品と指定外部品
指定部品とは、「自動車使用者の嗜好により、追加、変更等をする蓋然性が高く、安全の確保、公害の防止上支障がないものとされている自動車部品」のことで、国が認めているアフターパーツのことです。
指定部品の一例 | |
---|---|
車回り | エア・スポイラー、デフレクター、ルーフラック、フォグライト、エアロパーツ類など |
車内 | オーディオ、空気清浄機、カーナビゲーション、無線機など |
操作装置 | シフトレバー、パワー・ステアリング、など |
走行装置 | タイヤ、ホイール |
足回り | ストラット、コイル・スプリングなど |
排気系 | マフラーカッター、エギゾースト・パイプなど |
その他 | ミラー、火器類、身体障害者用操作装置など |
それ以外のパーツは指定外部品となります。
指定外部品は一定範囲内での装着は認められますが、一定の範囲を超える場合は簡易的取付方法での装着を除き、構造等変更検査を受ける必要があります。
ここで重要になってくるのが、取り付け方法です。
自動車の部品には3つの取り付け方法が存在します。
簡易的な取付 | 蝶ネジ、クリップ、ボディ用テープなど |
固定的取付 | ボルト、ナット、接着剤など |
恒久的取付 | 溶接、リベットなど |
そして指定部品と指定外部品の両者は、この取付方法の違いで構造等変更検査が必要になってきます。
指定部品 | 一定範囲内 | 一定範囲外 |
---|---|---|
簡易な取付方法 | ◯ | ◯ |
固定的取付方法 | ◯ | ◯ |
恒久的取付方法 | ◯ | × |
指定部品でも、一定範囲を超える溶接などの取り付けはそのままだとNGということです。
まぁなかなか無いですけどね…。
指定外部品 | 一定範囲内 | 一定範囲外 |
---|---|---|
簡易な取付方法 | ◯ | ◯ |
固定的取付方法 | ◯ | × |
恒久的取付方法 | ◯ | × |
指定外部品の場合ですと、一定範囲を超えたボルト・ナットでの固定も構造等変更検査の対象となります。
例えば、指定外部品であるホイールアーチトリムをボルトナットで固定して取り付ける場合は、±2cmまでがOK。
片側1cm以上になると、構造等変更検査が必要となります。
よくあるNG例で、車高調による高さ±4cmの変更があります。車高調はコイルスプリングとショックアブソーバーによって構成されており指定部品です。なので溶接などの恒久的取付以外であれば4cm以上の調整は可能なので勘違いされないように注意して下さい。
【補足3】世界基準のEマークとは
社外品の灯火類を扱う場合は、必ずといってもいいほど「Eマーク取得品」であるのかを確認します。
Eマークは自動車・同部品の世界基準です。
そのため、日本製の補修部品(アフターパーツ等)で世界に発売されている部品には必ず eマーク又はEマークの印があります。
EU加盟国(欧州連合)向けに自動車部品を輸出する製品に表示が求められる「Eマーク」が世界基準の認証になっており、取得していれば品質も認められているパーツと考えて良いので「保安基準も大丈夫ですよ」という判断材料になりえるわけですね。
ただこれは、あくまで世界基準であり、このマークがあるからといって保安基準をクリアしているわけではありません。「判断材料になる」というだけです。
不正改造は罰則・罰金がある
クルマには、安全・環境基準である保安基準に適合していなければ公道を走行してはならないと法律で定められています(保安基準)。
ようはクルマの安全を保つための基準ですね。
保安基準は、道路運送車両法の中にある技術基準で、れっきとした法律です。
この基準を違反した不正改造車の使用者、不正改造の実施者に対して刑罰が科せられます。
また、道路運送車両法第99条の2(不正改造等の禁止)により、保安基準に適合しない改造そのものが犯罪(道路運送車両法違反・不正改造)であると見なされており、保安基準に不適合となるような違法な改造を施した業者が警察に摘発、逮捕された事例も多くあります。
基準を満たすかどうかをチェックするのが車検であり、基準を満たしていなければ車検に通りません。
最後に伝えたいのが、故意に不正改造をするのは言語道断ですが、一番怖いのは「知らない」ということ。
怖いのが、灯火類です。
クルマの灯火類には多くの色が使われていますよね。
その分、他車を幻惑しないような基準が多く設けられています。
手軽に楽しめるのが灯火類のカスタムだけあって、ドレスアップ目的で楽しまれる人が多いですが、中には保安基準を完全に無視したようなカスタムパーツを平気で販売している業者も見受けられます。
アフターパーツを販売する側からしたら、車検が通らなかろうが、ユーザーが捕まろうが知ったこっちゃないですからね。
私有地やサーキットで走らせる分には構いませんが、公道で走らせるのであればしっかりとした知識を身につけるべきです。
インフラでもある自動車をカスタムするという行為は、知識がセットであることを忘れないで下さい。
今回は以上です。