【徹底解説】水平対向エンジンのメリット・デメリットとは!?|スバリストがエンジンの基礎から初心者にわかりやすく丁寧に解説します!

水平対向エンジンのメリットについてはネットでさまざまなメディアで紹介されてるけど、国内で採用しているメーカーがスバルだけということは、何かしらのデメリットもあるよね?

現在、ほとんどの自動車メーカーが採用しているのが、シリンダーを一列に配置した「直列型」と左右交互のV型に配置した「V型」です。

クルマ好きの間で「このクルマは直6(チョクロク)で〜」とか「このエンジンはV6(ブイロク)で〜」とか言っているのはシリンダーと呼ばれる、ピストンが上下する筒が内蔵されている数とその方向がどう向いているのか、を表す言葉を略して言っています。

対して、シリンダーを左右交互に配置する「水平対向エンジン」。

世界で生産しているメーカーは、スバルとポルシェだけ、と非常に珍しい構造のエンジン。

左右対称のピストンの動きがボクサーのパンチを打ち合う様子を連想させるため、「ボクサーエンジン」とも呼ばれています。

で、結局のところ他のエンジンと比べて何が良いのか…。

エンジンの内部って、目に見えるような部分ではないので、ピンとこないんですよね。

筆者も自動車整備学校に入学するまでは、いまいちよくわかってませんでした。

実際、クルマを買いにスバルのディーラーに行って、営業マンにある程度説明されるものの「ほぅ…。とりあえず良いエンジンなのかな?」ぐらいの印象の人も多いはず。

そこでこの記事では、「水平対向エンジン」のメリットとデメリットについて、エンジンの基礎から初心者向けにていねいに解説していきます。

【知っておきたい】ガソリンエンジンの基礎

スバルレヴォーグの写真

「水平対向4気筒1.8L(リッター)のターボを搭載し….」。

こんな記述がクルマのメディアを見ると必ずと言っていいほど出てきますよね。

ちょっとクルマに詳しい人ならすぐにピンとくるスペック表記ですが、クルマ初心者にとってはなかなかイメージしづらいものです。

エンジンはクルマにとっての心臓とも言える、走行に欠かせない大切な部分です。

エンジンの力で走ることは知っていても、実際にどのような仕組みで動いているのか詳しいイメージがつかない方もいるのではないでしょうか。

まずは、エンジンの仕組みと種類について解説します。

世のエンジンのほとんどが「4サイクルエンジン」

ほぼ世の中のすべてのエンジンは、「レシプロエンジン」と呼ばれるもので、シリンダー(筒)の中でピストンが往復し、この往復運動をクランクシャフトで回転運動にかえて、動力としているものがほとんど。

レシプロエンジンとは、燃料の熱エネルギーをピストンの往復運動に変換し、回転運動として出力する原動機のこと

レシプロエンジン以外には、ロータリーエンジンという方式もありますが、マツダ・RX-8の生産が終了して以来、市販車には採用されていません。

「4サイクル」のレシプロエンジンとは、4つの工程(往復運動)を踏んで、回転運動を生み出し、タイヤに回転を伝えるエンジンということです。

動画で見ると分かりやすいです。

1:吸気工程
ピストンが下がり、吸気バルブが開いて燃料を含んだ空気(気化したガソリン)をシリンダ内に取り込みます。

2:圧縮工程
ピストンが上がり、燃料を含んだ空気を圧縮します。

3:燃焼行程
点火プラグにより点火され、燃焼ガスの膨張によりピストンが下まで下がります。

4:排気工程
ピストンが上がり、排気バルブから燃焼ガスが排出されます。

このように4つの工程を繰り返すことで回転を生み、タイヤまで回転が伝えられます。

4サイクルエンジンがなぜこれほど普及されているかと言うと、その構造から発生する出力特性は、エンジンの回転数に応じて徐々に出力が増えていくというフラットな特性で、低い回転域でもしっかりとした出力を得られるため、誰にでも扱いやすいというメリットがあるからです。

昔から多くの乗り物や機械に幅広く採用されてきました。

かつては2サイクルもありましたが、燃焼ガスと一緒に未燃焼ガス(混合気)が共に排出され、そしてエンジンオイルが燃焼する2サイクルエンジンの排気ガスは有害物質がより多く含まれている観点と、年々強化される排気ガス規制の影響で絶滅しました。

2サイクルエンジンは、ピストンが1往復するだけで動力を生み出すために必要な全ての過程(1周期)をこなせるエンジンで、エンジン回転数が上がっていく速度は早いですし、パワーの出方も強力でした。

とはいえ、4サイクルエンジンは、パワーを最大限に生み出すという面では非効率的ですが、排気ガスは2サイクルエンジンよりも比較的キレイで環境にも良い。

あらゆる乗り物と環境とのバランスを考えると、4サイクルエンジンがもっとも適したガソリンエンジンといえます。

「直列、V型、水平対向」エンジンの形

エンジンの形の図解

ガソリンエンジンには、さまざまなシリンダー(ピストン)の配列があります。

シリンダーが一列に並べられたものを「直列」、2列に分かれて「V字」に配置されているものを「V型」、シリンダーが寝かされ向かい合うように配置されたものを「水平対向」と呼んでいます。

種類直列V型水平対向
メリット低コストで生産できる
構造が単純で整備しやすい
軽量性に優れている
エンジンの全長が短くなる
重心を下げることができる
低振動・低重心
エンジンの全長がコンパクト
デメリットエンジンルームにスペースが必要
少ない気筒数では振動が大きい
部品が多くなり複雑になる
エンジンの重量が増える
開発コストがかかる
横幅が大きい
改良に制限がある

直列型エンジンは、シリンダーブロックがひとつなのでパーツの数が少なく済み、低コストで生産できることから、もっとも普及しているエンジンです。

構造も単純で、メンテナンスがしやすいことのほか、部品点数が少なく、軽量性にも優れているといった点もあります。

デメリットとしては、全長が長くなるので、エンジンルームにある程度のスペースが必要になるのと、軽自動車のエンジンに多い「3気筒」になると、少ない気筒数では振動が大きくなり、乗り心地に影響が出てしまうこともあります。

V型エンジンと水平対向エンジンの違いについては、ほぼ違いがないようにも見えます。

ピストンが向き合っている水平対向エンジンは、ピストン同士がお互いの振動を打ち消し合うので「低振動」、ピストンを水平に寝かせることができるので直列やV型よりも「低重心」で搭載できるので、水平対向エンジンのほうが有利にも思えます。

ただ、燃費にも直結する「ロングストローク化」に向いておらず、エンジンの改良に制限があります。

エンジンの「横置き」と「縦置き」

縦置きのエンジンの写真

クルマのエンジンには、「縦置き」「横置き」の2つがあり、クルマの大きさの関係で「横置き」が多く採用されています。

直列エンジン、V型エンジンは、どちらの搭載方法も可能ですが、水平対向エンジンは、基本的に縦置きを前提に開発されたエンジンです。

エンジンの縦置きと横置きでそれぞれ異なる特徴を持ち、メリットやデメリットが存在します。

縦置きのエンジンは、エンジンの主軸となるクランクシャフトとトランスミッションが一直線上に配置されます。

左右対称のレイアウトとなるため重量バランスにとても優れており、後輪に動力を伝えるプロペラシャフト、ドライブシャフトを追加することで、 シンプルな構造かつ、 4WDのレイアウトにしやすい特徴があります。

一方でエンジンルームに縦置きするために、車内空間が少し狭くなりがちです。

横置きエンジンは、エンジンの主軸となるクランクシャフトの方向がクルマの前後方向に対して平行な状態で配置されています。

エンジンルームが小さくでき、室内が広くとれるなどのメリットがあり、近年では多くのクルマで採用されています。

コンパクトカークラスほぼこのレイアウト。

エンジンの回転方向とタイヤの回転方向が同じになるため、トランスミッションはシンプルな構造になりますが、フロントタイヤより前に搭載され、そこに重量が集中するので重量バランスが悪くなります。

つまりは、縦置きは走行性能に特化したレイアウト横置きは広い室内空間をつくることに特化したレイアウトということです。

シリンダーの数と容積で「排気量が決まる」

エンジンの内部のイラスト

シリンダーの数とは、たとえば「4気筒」の場合は、シリンダー数が4つあるものを言います。

注射器でいうところの外側にある「筒」の部分をイメージすると分かりやすいです。

エンジンのシリンダーとは、上下運動を行うピストンとコンロッドが納まっている筒状のパーツを指します。

シリンダーの数には、それぞれ特徴があります。

シリンダー数が少ないほど、部品点数が少なくなるのでコストダウンにつながることや、構造が単純になり整備性がよくなることがメリットですが、振動を抑えることが難しくなります。

なので、現在の軽自動車は「3気筒」が主流です。

軽自動車という限られた規格とコスト面を考慮した結果です。

シリンダー数が多くなると、振動を抑えることができるので、エンジンの回転が滑らかになりますが、部品点数が多くなるのでコスト増や整備性が悪くなってしまいます。

また、高回転時の出力が上がり、最高速度が高くなります。

その反面、低速での加速性能は悪くなり、燃費が落ちます。

排気量が大きくなると、6気筒、8気筒となっていきます。

乗用車では2気筒から8気筒が一般的で、基本的に大型車やスポーツカーでは気筒数が多く、排気量も大きくなります。

自転車でいうところの「足」をシリンダーの数に例えると分かりやすいです。

1人で漕ぐ自転車と、2人で漕ぐ自転車があったらどちらの方が早く走れそうですか?

2人で漕いだ方が早く走れそうですよね。

ただ、2人で漕ぐとなると、2人分の水分補給(燃料)が必要になるので、コストがかかります。

こんなイメージです。

また、エンジンの排気量を指す言葉で、「〇〇L(リッター)のエンジン」と言う表記がありますが、シリンダー内で燃焼が行われる空間の容積を表します。

例えば、「2.0L水平対向エンジン」という表記があれば、「500cc×4気筒=2.0リッター」となるわけです。

ターボとは「足りない空気をエンジンに送る装置」

ターボエンジンの写真
スバルのターボ車(現行)
レヴォーグ、WRX、アウトバック、フォレスター(SPORT)

エンジンに詳しくない人でも、「ターボ=高性能」「ターボ=速そう」というイメージを持っているかもしれません。

ガソリンエンジンでは、燃料をエンジン内に噴射するのにインジェクターという燃料噴射装置を使っています。

インジェクターに電気が流れている時間をコントロールすることで、走行条件に合わせた燃料を噴射します。

エンジンが高負荷な場面(坂道での加速など)では、多くのガソリンが必要になります。

しかし、ガソリンを増やせば、それに見合った空気が必要になります。

ガソリンエンジンの燃焼は、直接ガソリンを点火しているのではなく、空気とガソリンを混ぜた「混合気」を作り出して燃焼しており、それには最適な割合があります。

例えば、最適な「ガソリン:空気」の割合を「1:14.7」とすると、ガソリンを2倍にすれば空気も2倍の29.4が必要になります。

ある程度のところまでは、空気側は何もしなくても燃料に見合っただけが吸い込まれますが、ある程度のところで限界に達してしまい、空気が足りなくなってしまいます。

その限界を突破するための装置が「ターボチャージャー(ターボ)」です。

ターボは、よりたくさんの空気をエンジン内に送り込むことで、高出力に必要になる燃料噴射に見合った空気を送り込むことができます。

排気ガスの勢いを活用し、扇風機の羽根のようなタービンを回転させます。それにより同軸上のコンプレッサーが回転し吸気側の空気を圧縮します。大量の空気をシリンダー内に送りこむことができれば、それだけ大きな力を発揮できるようになります。

結果、「たくさんのガソリンを爆発させることができる」=「よりたくさんのエンジンのパワーを生み出すことができる」ことが可能になります。

導入した頃のターボエンジンは、パワー増強が主な目的でしたが、燃費が悪く、運転しにくいというデメリットがありました。

近年のターボ技術は大幅に進化し、環境性能に優れたターボエンジンが主流となっています。

2.0L以下の小排気量のエンジンにターボを装着し、小排気量ならではの優れた燃費性能とターボならではの力強い加速を両立しています(ダウンサイジングターボ)。

ちなみにレヴォーグ、フォレスター、アウトバックでは、「走行性能」「環境性能」を高次元で両立するエンジンとして、第4世代となる水平対向エンジン「CB18」を新開発しています。

リーン燃焼とターボを組み合わせることで、低回転から気持ちの良いトルクとフィーリングを体感できます。

直噴エンジンは「燃費・出力に優れている」

スバルの対象車種
レヴォーグ、WRX、アウトバック、フォレスター、スバル XV、インプレッサ

エンジンの話をするときに「直噴(ちょくふん)」という言葉を聞いたことがある人って多いんじゃないかなぁと思います。

近年登場する新型ターボ車のほとんどは直噴システムを採用しています。

直噴エンジンとは、燃料を直接燃焼室の中に噴射させるシステムを搭載しているエンジン。

インジェクター(燃料噴射装置)からシリンダー内に直接ガソリンを噴射(直噴化)すると、吸入される空気にはガソリン成分が無いため、より多くの空気(O2:酸素)を吸入することができます。

また、ガソリンが気化する際に熱を奪うため、シリンダー内の温度が下がり、ノッキングしにくくなり、圧縮比を高められます。

圧縮比とは、シリンダー内に吸い込まれた混合気または空気が、ピストンで圧縮される割合。圧縮比が上がるとトルクが大きくなり高出力につながります 。

同時に今までより精密な燃焼制御が可能になることで、燃費を向上させることが可能となります。

ただ、大気圧の10倍以上にもなる圧縮空気内に燃料を噴射させるには、それより遥かに高い噴射圧力が必要となるので、それなりの技術コストがかかってしまいます。

しー

BRZの場合は、シリンダー内に直接燃料を噴射する直噴と、吸気ポートに噴射するポート噴射2種類のインジェクターを備え、エンジン回転数などに応じて使い分ける「D-4S」というシステムを使っています。高圧縮比による高性能と燃焼の効率化を図った専用システムです。

ハイブリッドとは何か!?3つのハイブリッド

ハイブリッドシステムの写真
出典:モーターファン
スバルの対象車種
フォレスター、スバル XV、インプレッサ

クルマで言うところのハイブリッドとは、エンジンの動力とモーターの動力を、走行条件に応じて使い分けたりする装置です。

ハイブリッドエンジンには3つの種類があり、「シリーズ方式」「パラレル方式」「シリーズ・パラレル方式」に分けられます。

それぞれの特徴を見ていきます。

「パラレル方式」は、エンジンとモーターを駆動力として使い分けます。エンジンが主役となり、モーターは補助的な役割。シンプルな構成で、比較的低コストなため、マイルドハイブリッドとして使う場合が多いです(スズキ「S-エネチャージ」など)。

「シリーズ方式」は、エンジンをモーターの発電用として使い、全域モーターで走行します。バッテリーEVと同様、高速域で効率が低下します。(日産の「e-Power」など)。

「シリーズ・パラレル方式」は、パラレルとシリーズの良いところ取りのシステムで、発進・低速時はモーターだけで走行し、速度が上がるとエンジンとモーターが効率よくパワーを分担。エンジンの出力を発電用と駆動用に使い分け、エンジンとモーターの駆動力を合成して走行します。効率は高いのですが、システムが複雑でコストも高くなります(プリウス「THS」など)。

それぞれメリット、デメリットがあり、モーターの活用方法はさまざま。

どれが良いのかは乗り方次第ですが、走行性能を考えると、構造が極力シンプルで軽量な「パラレル式」はおすすめです。

部品点数が減れば、故障のリスクも最小限に抑えれます。

ちなみにスバルのハイブリッド「e-BOXER」は、機構的には「パラレル式」を採用しており、メインはエンジン、モーターはサポートというシステムです。

開発時はさまざまなシステムを検討されたそうですが、水平対向エンジン+シンメトリカルAWDの独自レイアウトを犠牲にすることなく電動化させるためには、構造がシンプルで重量も抑えられるこのシステムが最適であると考えたそうです。

一般的な「燃費志向」のハイブリッドは、エンジンは効率の良い燃費最良の運転をし、不足するトルクをモーターでアシストします。

e-BOXERの場合は、ドライバーから要求されたトルクに対して、エンジントルクが不足する分をモータートルクでアシストします。

水平対向エンジンは、低回転域のトルクが出にくい特性がありますので、これがカバーできると大きくしたかのような効果があります。

「電動のターボ」という表現がわかりやすいかと思います。

【深掘り】水平対向エンジン「4つのメリット」

シリンダーが左右に分かれて、水平に向かい合う水平対向エンジン。

スバルでは、このエンジンを走りの面でも安全性の面でも理想的なエンジンと考え、1966年に発表した「スバル 1000」以来、進化させ続けてきました。

この水平対向エンジンを元に、スバル独自の重量バランスに優れた左右対称レイアウトの四駆システム (シンメトリカルAWD)が可能となり、走りの性能をさらに高めてきました。

ここからは、水平対向エンジンのメリットについて解説します。

シリンダーが水平なので低重心=走行安定性が高い

クルマの心臓部であるエンジンの重心が低くなるということは、カーブ時のふらつきが少なく、高い走行安定性を発揮することができます。

エンジンはクルマの中で最も重い部品と言われており、重心位置を決める重要な要素です。

「重心は、低い方が安定する」のは、感覚として誰にでもあると思います。

人間に例えると分かりやすくて、突風が吹くとそれに耐える為に身をかがめると思います。

身をかがめる=重心が低くなる。

前からものすごい風が来るのに対して、真っ直ぐ立ったまま向かっていくとフラフラと安定しませんよね?

一方、身をかがめて重心を低くして進む方がフラフラも最小限に抑えられ、真っ直ぐ立ったままよりも安定して進んでいけます。

クルマの構成パーツのなかでもっとも重いエンジンの重心が低いことは、ハンドリングに良い影響を与える。

カーブ時においてエンジンを低重心にすることは、直列やV型よりも物理的に有利とされる点が多いです。

優れた回転バランス=振動を打ち消し合う

水平対向エンジンは、向かい合うピストンが互いの振動を打ち消し合う作用が発生するので、バランスが良く、低振動化につながります。

回転がスムーズで高回転域での振動が少なく、直列やV型エンジンで振動を抑えるために用いるバランサーシャフトも不要となるので、部品点数を減らすこともできます(軽量化)。

エンジンと主軸となるクランクシャフトにの基本的な構造は、1つのシリンダー部分に対し1つずつカウンターウエイトを設けた「フルカウンタークランクシャフト」。複数のシリンダーをカウンターウエイトや、バランサーシャフトでバランスさせる「セミカウンタークランクシャフト」があります。

両者とも振動を防止するために設けらています(両者の違いは割愛します)。

他と比較して振動が少ない水平対向エンジンのクランクシャフトが「完全バランス」といわれるのは、フルカウンタークランクシャフトに取り付けるバランスウエイトが、反対側のピストンでバランスウエイトの代用がされることで、バランスをとるだけの重りでなく、エンジンとして機能させることができるためだと考えられます。

水平対向エンジンのクランクシャフトは、左右180°方向にピストンが同時に動く構造から、フルカウンタークランクシャフトと同じような理想的な重量バランスを、そして低振動を実現できるわけです。

物理的に振動が少なく、静寂性に優れるため、長距離ドライブでの疲労軽減につながります。

エンジン剛性が高い

水平対向エンジンは剛性が高い

水平対向エンジンが物理的に「低重心・低振動」であることはメディアでも散々語られてきましたが、「剛性」が高いことも特徴の1つ。

「エンジンの剛性が高い」というのは、シリンダーブロックやオイルパンなどの全部品を組み込んだ状態での曲げやねじれにくさを言います。

エンジン剛性は騒音、振動、摩擦などに影響します。

剛性が不足するとエンジンが変形したり、ピストンが焼き付いて故障したりすることもあります。

また、高速回転化ができなかったり、騒音を増大させます。

水平対向エンジンの場合、エンジンの主軸となるクランクシャフトを左右のシリンダーブロックが均一に挟み込む構造のため、ケース剛性が高くなります。

そして直列エンジンと違って、左右にピストンを振り分けられる水平対向エンジンはクランクシャフトを短くできます。

よって最も重たいクランクシャフトの重さが、直列エンジンと比較して軽くすることもできますから、より剛性を高めれることにもつながります。

長さが短いと剛性に優れるというのは、数式的にも成り立っている話。軸の中心から支点までの距離が、かかる荷重と積算されます。かかる荷重が同じ1であれば、長さが短くなると計算結果はそのまま小さい数字となります。

コンパクトにできるので衝突安全性も高い

安全性が高い

ピストンが左右対称構造の水平対向エンジンは、全長を短くすることができます。

それによって、車内空間を広く取ることができるのは、誰にでも想像できると思いますが、実は衝突安全性にもその効果は付与されます。

エンジンをコンパクト化することで、全面衝突時にエンジンがキャビン下に潜りこむような構造をとれるので、衝突時の衝撃を効率よく吸収。

車内の変形を最小限にとどめることができるので、乗員保護に有利になります。

【深掘り】水平対向エンジンのデメリット

水平対向エンジンは前述した優位性を持つ一方で、デメリットもいくつか挙げられます。

大幅な改良ができない

水平対向エンジンは、横方向へ拡大させづらい特性により、ショートストローク傾向にならざるを得ない点もさまざまな制約を伴います。

エンジン回転数が同じなら、ストロークの長いエンジンだと、それだけピストンが上下動する平均速度=ピストンスピードが速くなります。

つまり、ロングストロークエンジンは、ショートストロークエンジンよりも、ピストンスピードが速いので、低回転で大きなトルクを発生し、実用域で使いやすいエンジン特性が得られます。

これを水平対向エンジンで考えるとどうでしょうか。

エンジンルームにはクルマのボディによって制約があります。

例えば、狭い土地に大きな平屋を建てようとしても、広さに限りがあり平屋が入りません。

したがって、水平対向エンジンや、V型エンジンは、直列エンジンと比較して前後方向には短くできますが、左右に広がってしまい、ピストンのストロークを長くとることが難しくなります。

ショートストロークのエンジンである水平対向エンジンは、ロングストロークに比べて、排気量が同じでもピストンの平均速度を大きくせずに回転数を上げられるので、排気量あたりの出力が大きくなるというメリットがあります。

とはいえ、その分エンジン回転数を上げなければならないので、水平対向エンジンは低回転のトルクが薄く、高回転でなければ性能を発揮しずらいですし、その分燃料の消費が多くなります。

また、エンジンルームの横方向のスペースに制約があるため、大幅なロングストローク化も見込めないなど、大幅な改良には不向きなエンジンと言えます。

※「出力・燃費・排気ガス性能」を究極まで高めた水平対向エンジン「FA24 DIT」についての記事はこちらで解説しています。

メンテナンスの依頼が困難な場合がある

整備工場のイラスト

国内で扱っているメーカーがスバルだけである以上、水平対向エンジンのメンテナンスが得意な修理工場や整備工場は少ないでしょう。

たとえ、メンテナンス可能な整備士がいたとしても、嫌な顔をされることもあるとか…。

しー

多くの修理工場、整備工場はスバルディーラーに外注されるところが多いかと思います。

タイミングベルトの交換、スパークプラグの交換、オイル漏れの修理など、一般的な直列エンジンに比べて作業の難易度が上がる箇所は多いです。

その分、特殊工具も調達しなければなりませんし、整備士側からしたら難易度に見合ったインセンティブも欲しいわけですから、工賃も上がります。

重力に逆らえない「オイル漏れの呪縛」

水平対向エンジンはオイル漏れしやすい…

これは昔からよく言われます。

一般的な直列エンジンでは、ガスケットは基本的にエンジンの横方向に広がっており、オイルはその脇を流れ落ちていくような形になります。

オイルがガスケットに触れている時間はほんのわずかなので、重力やエンジンの動きによってオイルは断続的にガスケットに当たるような構造です。

水平対向エンジンの場合は、横置きのエンジンになりますので、オイルがガスケットの下側の位置に溜まる結果となります。

重力で自然に流れてはいかないので、なにかしら動くものがない箇所はオイルが常にガスケットに接触している時間が長くなるわけです。

簡単に言うと蓋をしたペットボトルを横向きにし、水平に倒した状態と縦向きに置いた状態では、どちらが漏れやすいのか、といったイメージでしょうか。

ただ、「ガスケット類の品質と向上」や「エンジンオイルの品質向上」、「ゆとりのあるエンジンルームによる熱ごもり軽減」によって一昔前に比べるとオイル漏れ修理も減少傾向にあります。

20年以上前の水平対向エンジンは、車検ごとにオイル漏れ修理を行っていたという話もよく聞いてました。

ちなみに、極力オイル漏れを防ぐ方法としては「オイル管理」にあります。

エンジンオイルの写真

これは筆者のこれまでスバル車を整備してきた経験談なので、異論は認めますw

しー

オイル漏れの原因は「ガスケットの劣化」が主になりますので、劣化したままのオイルを使用し続けるとガスケットを痛めます。

「定期的にエンジンオイルを交換する」というのは常識なわけですが、ガスケット下側の位置にオイルが残留しやすい水平対向エンジンにとっては非常に重要なことなので覚えておいて下さい。

これを理解し、徹底的なオイル管理を継続的に行っているユーザーさんのエンジンはコンディションとともに、エンジンルームも非常に綺麗な印象です。

他のメーカーが作らない理由

水平対向エンジンの写真

向かい合ったピストンが振動を打ち消しあうことで得られる回転バランスの良さや、シリンダーを横に寝かすことで天地・前後方向を短く構成でき、低重心・コンパクト化がはかりやすいなど、直列やV型よりも物理的に有利とされる点が多い「水平対向エンジン」。

スバルのお家芸といって良いほどこだわってきたエンジンです。

ではなぜ他のメーカーは作らないのか。

理由としては4つあると考えます。

  • 特殊なエンジンは設計の経験値が必要
  • ゼロから作るにはコストがかかる
  • 運動性能を求める時代じゃない
  • レイアウト上、搭載車が限られる

以上のことからもう水平対向エンジンは、スバルとポルシェにしか作れないんですね。

もしこの記事を読んでいるあなたが「燃費なんて気にしない」「優秀な走行性能が欲しい」「他のメーカーにない個性的なクルマを選びたい」のであれば、水平対向エンジンは間違いなくそれに応えてくれますよ。

デメリットもありますし、「時代遅れのエンジンだ」との声もありますが、それでもまた走らせたくなる。

あなたの「カーライフ」を安全に・楽しくさせてくれるエンジンがスバルにあります。

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