自動車整備士の人員不足の深刻化は社会問題となってきています。
最近では新聞やWebメディアでも取り上げられるほど。
読売新聞の記事によると、18歳人口の減少や大学志向、若者の車離れなどが要因だとのこと。とくにディーラーの場合だと人材確保には苦労していて、これからの時代は先進安全技術・EVの発展によって今まで以上の高度の技術が必要になってきます。
これに関してわたしは思います。
- 少子高齢化による人員不足←わかる
- 若者のクルマ離れによる人員不足←わかる
- 給料が低い←わかる
たしかに理解できます。
ただ、わたしはこれが全てだと全く思わない。
今いる現役自動車整備士たちがほったらかしになっていることに違和感を強く感じます。
【生の声】自動車整備士の不足は給料が全てではない話【モチベーション低下の原因】
わたしは国産ディーラーで自動車整備士(メカニック)として働いています。
勤続年数は11年で、現在の年収はサラーリマンの平均年収よりは上。
自動車整備士の中では「中の上」ぐらいですかね。
給料自体にそこまで不満はありません。
ただ、モチベーションがめちゃくちゃ高いかと言われるとそうでもないのがリアルな話です。
その原因はただ流れ作業でやってしまっている、というよりかはそのような状況下で働かざるを得ない状況になってきてしまっていること。
そしてやる気のある人間が評価されない現状。
モチベーション不足は給料だけではない、それ以外の原因について解説します。
筆者の過去についてはこちらにまとめています。
自動車整備士の不足は給料が全てではない話
自動車整備士全体を見渡すと、人員不足の原因は結局のところ「給料」だと思います。
クルマが好き。
クルマをいじりたい。
好きなことを仕事にしたい。
自動車整備士は給料が少ないからお金がない。
クルマを維持・カスタムできるほどの給料がもらえない。
だったら趣味程度にしておこう。
これって自然なことですよね。
そもそも興味がないっていうのもありますね。昔と違ってクルマ=ステータスの時代ではありませんので。
ただ、「興味がない」=自動車整備士が不足している原因なのでしょうか?
警察官になりたい人の原因は、「人が犯した犯罪が好きだから」「犯罪者を捕まえることが好きだから」とかではないはず。
「市民のために市民を守る仕事をしたい」などの人の役に立ちたいという部分と「安定した給料がもらえる」といったような要因があるはず。
自動車整備士はどうでしょうか。
私は自動車整備士と言う仕事は、命に関わる大切な仕事だと思ってます。些細なことが人の命を失ったり奪ってしまったりしてしまいます。
ホイールナットを締め忘れただけでもニュースざたになることもあるでしょう。
こんな感じでクルマ社会では大変重要な役割があるといえる自動車整備士。
なぜ「他人の命に関わる仕事である自動車整備士」にみんな就きたいと思わないのか。
「整備士不足の原因」の答えって給料を含めた待遇が他業種と比べて良くないからではないでしょうか?
基本給のベースアップは早急に行うべきだと考えます。
とはいえ、わたしは給料にそこまで不満がありません。家も購入し、新車でクルマが買えるほどの余裕はあります。
ただ、業界全体を見てみると「自動車整備士の給料は少ない」というのは周知の事実(あまり考えたくないですが)。
給料面をある程度クリアしたものの、自動車整備士不足は給料以外にも原因があると思ってます。
ここからのお話は、わたしが働いている国産ディーラーで思う「自動車整備士不足が給料以外にもある」というお話です。
わたしが働いているディーラーだけかもしれませんが、今後の業界全体に通じる話になるかと思います。
流れ作業になった点検
そもそも「点検」とは何でしょうか。
ググってみると「誤りや不良箇所など悪い所がないかと、一か所一か所、検査すること」となっています。
一般的に考えてもそういう解釈なんじゃないかなぁと思います。
では実際に現場を見てみるとどうですかね。
メーカーのお膝元で活動しているディーラーの点検は、コンプライアンスをはじめとしたルール、マニュアルに沿って点検を行っていきます。
そして、ミスを防止するための多くのダブルチェックを行わなければなりません。
メーカーの看板を背負っている以上、「点検の漏れ」はあってはならないことですので。
現時点で思うに、この強固なマニュアルを覚えること、各ダブルチェックを確実に行わなれけばならないこと、どの店も同じような品質の点検を受けられるようにみんなが同じような点検方法を行わなければいけないことに必死で、肝心の「誤りや不良箇所など悪い所がないかと、一か所一か所、検査すること」ができる環境じゃないことに違和感を感じます。
「ミスが絶対にないようにマニュアル通りに確実にやりなさい」
確かに間違ってないのですが、それが現場のメカニックにとってかなり負担になっており、不具合などのイレギュラーが発生にしていても対応する隙間もない。
点検とはなんなのでしょうか。誰のためなのでしょうか。
流れ作業のような点検をしたくて整備士になった人はどれくらいいるのでしょうか?
「質より量」余裕のない時間
これは先ほどお伝えした「流れ作業化した点検」の原因でもあります。
質より量。
決められた時間内に作業を終わらせて次の作業へ。
ただ、この「決められた作業を決められた時間内に終わらせる」というのが一人歩きをしてしまっているのが今の現状です。
確かにメーカーが指定している強固なマニュアルは完璧であり、効率的で仕組みとしてはメリットが多い。
ただ、これは販売店、各店舗がしっかり理解して運用しないとメカニック達にとってはかなりの負担になります。
イレギュラーが少ない年式の浅いクルマには有効かもしれませんが、世の中のクルマが全てそうではないし、ディーラーで管理されている良質なユーザーさんでも年式が古ければそうもいきません。
マニュアル規定外の追加整備が発生すると、今の仕組みでは機能不全を起こしてしまいます。
例えば、「この車種はハブベアリングの異音を見ておいたほうがいいな」など、その時の流行りの故障ってあるんですよね。
時にはその点検に時間がかかることもあるでしょう。
「この車種はここも診ておきたい」
「せっかく点検に入れてくれたから診ておきたい」
「でも時間がない」
つねに時間に追われる点検は、何か不具合を見つけても「次の作業があるから見なかったことにしよう」となってしまってもおかしくない、瀬戸際の点検を強いられているのが今のディーラーメカニックたちです。
これが法定点検や完成検査になるとどうでしょうか。
「効率に特化した仕組み」は、使い方次第ではコンプライアンス違反にもなりかねない話です。
やる気のない整備士が得
自動車整備士の労働環境はわたしが入社した10年前に比べると確かに良くはなってきています。
- パワハラの減少
- サービス残業の撲滅
- 理不尽な時間外労働
当たり前のことが普通になってなってきているだけとも思いますが。
ただ、自動車整備士として働く中で給料と加えて「納得感」というものは今だに高くないのが現状です。
「頑張れば頑張っただけ給料を増やしますよ」という話は表面上ではよく会社から言われることですが、果たしてそれが現場にうまく落とし込めているかと言われると違和感を感じます。
自動車整備士が評価される主となるポイントは「店単位のサービス目標達成」と「資格」です。
営業のマンのように「個人のノルマ」がない分、評価がしづらいので「チームとしての成果」「個人の資格」が主になります。
「チームとしての成果」となってくると、できる整備士がやる気のない整備士をカバーしながら働くことになります。
やる気のない整備士は「難しい仕事を頑張っても、リスクが増えるだけなので簡単な仕事だけやっていれば良い」。
できる整備士は「高難度な診断、高難度な修理、高難度な接客、難しい仕事ばっかりこっちに振られるけどアイツと給料が変わらない」。
チームで仕事を行う場合、できない・やる気の低い整備士の仕事の穴埋めをするのは、レベルが高い自動車整備士。
作業量に大きな差が出るにも関わらず、この差が収入に反映されない仕組みの為、やる気があり、向上心もあり、意識が高い自動車整備士がいても、常に働き損となってしまいます。
優秀な上司はしっかりと評価してくれかもしれませんが、そうもいかないですよね。
個人評価があまりにもわかりにくい。
やる気があっても評価されないのであれば、そりゃ簡単な仕事だけしてさっさと帰りたいですよ。
よほど仕事が好きで、向上心があって、将来の目標があって、今の給料より未来のビジョンが明確な意識の高い自動車整備士であれば、今の評価なんて二の次かもしれません。
ただ、そんな人は職場に何人いますか?
自動車整備士個人の評価が難しいのは重々承知です。
過去にも同じような記事を書きましたが、評価されるべき人が評価されていない人たちはわたしの周りにもたくさんいます。
まずは「自動車整備士を減らさない」
これは過去にメカラジでも語りましたが、「分母を増やすのではなく、減らさないようにする」ことがポイントだと考えます。
今いる自動車整備士をほったらかしにするなと。
結局のところ、自動車整備士のなり手が少ないから募集したところで、今の環境が大きく変わらない限り増えたところでまた振り出しに戻るだけだと思ってます。
自動車産業は「100年に一度の大変革期」を迎えています。
たしかに作業を強固なマニュアルで管理し、数をこなしていかなければ、生き残れない時代になってきているので、この流れは正解なのかもしれません。
そういう時代なんだと。
ただ上司の中に「クルマに興味のある人材が入ってこない」という話をよく聞きます。
おそらく今の仕組み、働き方ではどうですかね。
働き続けてもらえるのでしょうか。
「クルマに興味のある人材」というのは、若者のクルマ離れもあって今後は貴重な人材になってきます。
クルマが好き・嫌いではなく、仕事として割り切って、それ相応の対価が貰える業界にすることが大切だと考えています。
今回は以上となります。
ラジオ日本の「メカラジ」に出演した時の台本・音声に関してはこちらの記事でまとめてあるのでぜひ覗いてみて下さいね。