このような疑問にお答えします。
「良い工具」。
「カッコいい工具」。
「使いやすい工具」。
こういった工具のイメージって、国産工具より輸入の工具の方が多いイメージはありませんか。
確かに、アメリカやドイツなどの輸入工具のほうが日本では何十年も前から評価されてきています。
これは日本に比べると、世界の自動車産業の歴史が圧倒的に深いからですね。
現在、主流となっているガソリン自動車が誕生するのは、1885~1886年。
蒸気自動車、電気自動車が混在していたころに、ドイツ人のゴットリープ・ダイムラーは4ストロークエンジンを開発し、1885年に木製の二輪車にエンジンを載せて試走に成功、翌1886年に四輪車を開発。
同じ1886年、同じくドイツ人のカール・ベンツがガソリンエンジンの三輪車を完成させて実際に販売。
20世紀初頭になると、フォードやキャディラック、ピアスアロー、ビュイックなど自動車メーカーがさらに増え、まさに群雄割拠の時代へと突入します。
そんな中、均衡を破ったのが、アメリカのヘンリーフォード率いるフォード・モーターカンパニー。
フォードの量産型車が多く生まれ、アメリカの自動車産業が目覚ましく発達していきました。
自動車の普及にともない、重要になってくるのが修理するための工具たち。
自動車の生産が開始された当初から、メカニックが車を修理するために必要な工具は重要でした。
ガソリンエンジン、ディーゼル、ハイブリッド、EV車などが普及している今日においても、工具の必要性は相変わらず重要です。
そんな工具メーカーの中でも、世界でこだわりの工具ファンの数が圧倒的に多いアメリカで、世界No.1ブランドとして半世紀以上を業界を牽引してきたのが「スナップオン」なんです。
【雑談】Snap-on(スナップオン)は高いだけ?世界の見本となった工具メーカーを徹底解説
わたしは、国産ディーラーの自動車整備士(メカニック)として10年以上働いてきました。
「スナップオン」は、わたしがメカニックを志した頃からの憧れのブランドで、その知名度と信頼性は計り知れません。
この10年間に買い揃えてきた工具の中でもスナップオンは圧倒的に多かったです。とてもお世話になってきました。
そんな世界的工具メーカー「スナップオン」の良さはみなさんご存知なんじゃないかなぁとは思います。
そこでこの記事では、「これから良い工具を使って整備を始めたい!」という人向けにスナップオンの魅力について深掘りしていきます。
もくじ
スナップオンは高いだけ?世界の見本となった工具メーカー
世界の自動車ディーラーやモーターレースの整備のプロが絶大な信頼をよせている工具メーカー「スナップオン」。
一体どのようなブランドなのか。
少ないツールで多くの作業を
1920年。
アメリカのグラインダー製造会社に勤務する一人の青年が画期的な工具を考案します。
「インターチェンジャブルソケットレンチ」。
レンチのハンドルとソケットを分離させて使用することができるツール。
クルマが誕生して間もない当時の製造現場には大量の工具が溢れていました。
工具が散乱していると「えーと、どれだっけ」と探すところから始まりますから効率も悪くなります。
そのような現状から1つのハンドルでいくつものサイズのネジを回す工具を誕生したんですね。
その現状を打破するべく、考案した青年が創業者のジョセフジョンソンです。
当時勤めていた会社の上司からは猛反対され、受け入れられませんでしたが、その後独立し、その画期的な工具を世に解き放ちます。
「ハンドルとソケットを分離させる」というのは、今では当たり前のようなことですが、当時は革命的なことでした。
当時は「この作業ではこの工具を使いましょう」というのが当たり前だった時代。
ようはメガネレンチやスパナなどが主流。
カチャ!カチャ!と工具をあれこれ組み合わせるという工具の楽しみ方や、ラチェットレンチをベースとした奥行きのある工具のラインアップもおそらくなかったかと思います。
そういう意味でもラチェットのルーツを生み出したスナップオンは、世界No.1工具ブランドの称号が相応しい工具メーカーだと言えるでしょう。
ソケットとハンドルを分離させることができるということは、一人一人のメカニックにあった組み合わせで作業が行えますから、工具の拡張性を広げることができました。
最初に販売されたレンチは、5種類のハンドルと10種類のソケットのセットで「5本で50の仕事をする」というのがコンセプトで、ジョセフジョンソンは、パートナーのウイリアル・セイドマンとサンプルを顧客に持ち込み、工具の良さを実証することで500セットの受注の成功を得ます。
これまでの常識を崩し新しい工具の価値を創造する精神は85年以上経った今でも受け継がれています。
スナップオンの誕生はたった一つの現場のアイデアから始まります。
日本とスナップオン
スナップオンはどのようにして日本に入ってきたのでしょうか。
今から70年ほど前のお話。
1945年8月30日、アメリカ陸軍のダグラス・マッカーサー元帥率いる進駐軍が日本を占領します。
その後、本国に帰る際、放出された工具のなかにスナップオンの工具がありました。
終戦後ということもあって、まもなくで物資が乏しく、高品質工具を手に触れる機会はほとんどなかった日本で、良質な鉄で作られたスナップオンの工具は、タフであり、美しく、コンパクトなデザイン、余分な肉が削ぎ落とされたシャープな工具は機能的でした。
アメリカ軍が徹底する前の放出品とはいえ、圧倒的な存在感を放っていました。
当時、運良くスナップオンの工具を手にすることが出来た日本のメカニックたちを驚かせたそうです。
とはいえ、放出品に出会えたのは進駐軍の基地の近くに居た一部のメカニックだけ。
その噂を耳にしても到底手にすることの出来ない幻の工具。
そんな入手困難度が、スナップオンの価値を高める1つの理由となったともいえます。
1967年には、日本市場に参入。
以後六工社が日本における輸入販売代理店となります。
現在でもスナップオンの特徴的な販売体系であるウォークスルータイプのバンによる販売を日本でも開始。
高度経済成長期による自動車産業の成長、生活水準の向上によって、メカニックたちに高品質な工具が手に届くようになり、日本でもスナップオンが普及していきます。
現在、日本国内では約300台程のバンが走っており、私を含めて多くのメカニックたちに貢献してくれています。
フランクドライブの誕生
1960年代に、スナップオンは「フランクドライブ」というシステムを開発します。
従来の工具は、点接触でボルトやナットを回していました。
点接触は、ボルトの六角部にトルクがかかるので、ボルトが痛みやすかったり、ボルト側に適切にトルクが伝わりづらいというデメリットがあったりします。
フランクドライブは面接触で回すことにより高いトルクでの締め付けを可能としています。
1960年代に米軍ではジェットエンジンの軽量化にともない、ボルト、ナット類を小型化する計画が進行されていました。
小型化されて新材質となったボルト、ナット類に対して十分な張力を発揮させるため、より強いトルクで締めることができるレンチが求められました。
フランクドライブは、アメリカ軍の要請で発明されたんですね。
スナップオンはこの要請にしっかりと答え、従来のレンチより最大20%もの高いトルクを発揮させ、米軍は小型化した部品の張力を犠牲にすることなくジェットエンジンの軽量化を実現しました。
フランクドライブの特許を取得したのが1980年代に切れ、各メーカーとも同様の機構を採用していますが、「面接触でトルクを伝える」という考えはスナップオンが先駆者なんです。
このシステムはボックスレンチやソケットだけにはとどまりません。
フランクドライブはその後さらに進化し、素早く仕事をこなすことができるオープンエンドレンチには、「フランクドライブ・プラス」と呼ばれる応用システムが採用されています。
フランクドライブシステムが考案されてからさらに進化し、スナップオン独自のフランクドライブプラス機構を採用したコンビネーションレンチが誕生します。
このフランクドライブプラスは、面接触部分に特殊な凹凸を設け、実際にトルクをかけた時に面と面で当たり接触面積を増やすことが出来るのです。
実際には、40%~62%もの高トルクを可能としており、錆びて緩まないボルト、ナットの取り外しには重宝できる画期的なシステムなのです。
フランクドライブプラスを搭載したコンビネーションレンチは、わたしも仕事で実際に使っています。
面接触部に凹凸があるので、部品を痛めてしまうデメリットがありますが、固着したボルト、ナット類の着脱には本当に重宝します。
「いざというときの切り札」といった感じですかね。
このシステムで助けられたメカニックたちは多くいるはずです。
筆者が使っているアイテム5選
ここからは、筆者が実際に愛用しているスナップオン製品をご紹介します。
これからスナップオン製品の購入を考えている人には、ぜひ参考にしていただけたら幸いです。
F80
2000年代後半に驚きの「80枚ギアのラチェット」として衝撃デビューした「F80」。
それまでのスナップオンでは、小判型ラチェットの完成形と言われた36枚ギアのヘッド【F936】というラチェットがメインでした。
これを80枚ギヤにフルモデルチェンジさせたのが【F80】であり、かつてのラチェットのイメージを大きく変える、柔らかな使用感と汎用性が高いラチェットが完成します。
80枚のギアが滑らかな動きを可能で、クローム仕上げで美しく、スナップオンの工具の中でもラチェットの先駆者と呼ばれる最高級のスタンダードラチェットになっています。
80枚もギヤがあるので耐久性に心配がありますが、推奨最大トルク108Nmとなっており、これは一般的なホイールナットの締付けトルクと同じ。
3/8 ラチェットでこんなトルクをかける人はいないと思いますが、それだけのトルクをかけても壊れない耐久性があるという意味です。
一般的なラチェットには、最大トルクの記載はありません。
ですが、スナップオンの場合「推奨最大トルク」の表記があるので、耐久性にはかなりの自信があることが分かります。
「F80」についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
FHNF100
スナップオンの中でもトップクラスの知名度と人気がある「FHNF100」。
まずスナップオンのスイベルラチェットの特徴は、トルクがかけやすいというところ。
首振りのラチェットは、とても便利で作業には欠かせません。
フレックスタイプのラチェットと比べると、ボルト、ナット類の真上に首振り機構があるのでトルクが逃げずに締め付けることが可能なんです。
筆者は、水平対向エンジンの整備をよく担当するのですが、狭く、奥まったスバルのエンジンルームでの作業では本当に重宝しています。
まず使わない日はないですね。
そして、ラチェットのヘッド部の「ベンツマーク」が正転逆転の切り替えを容易にしてくれます。
ここも大きなポイントです。
ギヤの枚数は100枚で、ラチェットの中でもトップクラス。
多段ギヤで心配になってくるのが耐トルク性能なのですが、FHNF100は、108Nmが推奨最大トルクで、こちらもトップクラスの耐久性を誇っています。
価格の方もトップクラスで、21728円(税込)。
「いやいやラチェットに2万は高すぎだろ!」となるかと思いますが、その価格を考えてもおすすめできますし、実際に愛用しているメカニックも多い事から価格以上の働きをしてくれることは間違いないです。
仕事で使う人はほぼ毎日のように使用し、長く使えるのですぐに元を取れますよ。
ちなみにスナップオンのスイベルラチェットはかれこれ10年使っています。
SOEXM710
数多くの上質工具メーカーのお手本となった、キングオブツールの名がふさわしいコンビネーションレンチ「SOEXM710」。
スナップオンのコンビネーションレンチは言わずと知れた説明不要のレンチですね。
スタンダードコンビレンチ比の40%~62%もの高トルクを可能としたフランクドライブプラスを搭載したコンビネーションレンチです。
フランクドライブプラスは、スパナ部の面接触部に縦溝や切込みの加工(凹凸)を施し、メガネ側と同じように面接触でしっかりボルトナットを掴みます。
どうしてもスパナでないとアクセスできないボルト、ナット類があると思いますが、スパナは接触面積が少ないため、舐めやすい。
「どうしても舐めたくない。ガッチリ掴みたい。」
こういった場面でこのコンビレンチは活躍してくれます。
ただデメリットもあって、傷はある程度力を加えるとほぼ100%入ると思った方がいいです。
なので、見せたい部分(ドレスアップパーツのボルトやナット)などには使用は控えるべきかなぁとは思います。
傷がどうしても気になるかと思いますが、スパナ部のトルクや精度に関してはトップクラスのレンチではないかと思います。
ECPND032J
スナップオンは、特にハンドツールが大人気のブランドですが、実は「ライト」のファンも意外と多いです。
携帯用のペンライトや作業用ライト、首にかけられるネックライトなど、メカニック目線で開発された便利で使い勝手のいいアイテムがたくさんあります。
その中でも筆者お気に入りなのが、「ECPND032J」。
良いところを上げるとキリがないので以下にまとめました。
- 超薄型設計。狭いスペースの使用に最適
- 180度折りたためるのでポータブル
- 3つのライトでそれぞれの作業に合わせて使える
- マグネット付きでハンズフリーに使える
- 落下に耐えるポリアミド+アルミニウム設計
スナップオンのライトの中でも軽量コンパクトで、器用に使える優れものです。
詳しくはこちらの記事で詳しく解説しています。
CTJ761
最後にご紹介するのが、スナップオンの3/8差込角のインパクトレンチ「CTJ761」。
主な特徴としては、他メーカーの電動インパクトに比べると圧倒的に軽くてコンパクト。
最大トルクは、162.7Nmと自動車用インパクレンチとしては非常に扱いやすいです。
特にお気に入りのポイントは、左右回転が一体化した「バタフライトリガー」。
いちいちスイッチを切り替える必要がなく、手元で切り替えができてしまいますので、時間短縮になります。
使用する前に「どっちの回転方向だったっけ?」と確認する手間も省けます。
さらにトリガーの握る力を変えることで、無段階にスピードとトルクを変化させることができます。
慎重に緩めたい場合や少しずつ締め付けたいときなども手元の感覚で調整可能。
普通自動車であれば、エンジンルーム〜足回りまでの整備をこれで網羅できることも可能です。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
同シリーズの電動ラチェットについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
工具は、大切に使えば”一生モノ”とも呼ばれます。
誕生から100年。
スナップオンの工具は今も尚、多くの工具ファンから高く評価されて続けています。
筆者も紛れもないその1人です。
その理由は、工具が生まれる背景の違いによるところが大きいかもしれません。
一般的な工具メーカーは、製造はするものの、販売は商社や販売会社を通じて行われます。
スナップオンの場合は、アメリカ本国で長く「デリバリーバン」と呼ばれる大型の荷室付きのトラックに工具を詰め込み、ユーザーを巡回する形で行われ、巡回するセールスマンはスナップオンの正社員ではないものの、フランチャイズオーナーとして高い意識でメカニックからのリアルな情報を収集し、こうして集められた情報が新製品の開発や、既存商品の改良に生かされています。
これまで100年間のメカニックの声をしっかりと製品作りに落とし込められているブランドなんです。
「高い」と言われるスナップオンの工具なのですが、その理由には深い歴史的な背景が隠されているんです。
「少ないツールで多くの作業を」、そしてそれが一生使える、あなたの相棒となる工具がスナップオンにはあるはずです。
今回は以上となります。
Snap-on(スナップオン)って高いだけでイマイチ魅力がわからない。